―乳がん手術後、運動した方がいいと言われるけれど
いつから、どれくらい、動かすといいの?―

このようなお声はよく耳にします。

乳がん術後、すぐに関節可動域維持のための運動は推奨されており、実際に医療機関にご入院の間にもリハビリの一環として実施された方もいるのではないでしょうか?

乳がんの手術における入院期間は3~6日程度で、その後は主治医の診察や定期検診はありますがリハビリに通うことはほとんどありませんよね。

今回のブログでは、退院後どのように運動し始めるといいのかをお伝えしていきたいと思います。

術後6~8週間は、関節可動域や心肺機能を維持・回復するための運動が好ましいです。

例えば、
・仰向けのまま肘を曲げて、ベッドを肘で押す
・深い呼吸を意識して、お腹やお胸回りをやさしく動かす
・ゆっくりとした動作で肩まわしを行う
・首、手首、指のストレッチを行う
・術部以外の下半身を積極的に動かす(スクワットや散歩など):この時も呼吸を意識する

このような運動です。

乳がん術後6~8週に、すぐに全身の筋力をあげるような運動を行わない理由は、ドレーン抜去後のむくみを予防するためです。
乳がん手術ではドレーンを装着し、術部の状態や排液状態に応じて退院時期を決めます。

とくに、センチネルリンパ節生検やリンパ節郭清を実施された方は、術後6~8週は全身をゆったり動かす有酸素運動、肩回しもゆったりとした速さで行い、呼吸を意識した動きを意識されるといいと思います。

術後8週間が経過したら、徐々に体力・筋力向上のための運動に移行していくことができます。

しかしここでも、いきなりダンベルをもつ、チューブを使ったエクササイズを行う、といった運動選択というよりは、重さや抵抗力の低いツールを用いた機能改善のための運動が好ましいです。

例えば、
・自宅のリモコンをもって腕を振る
・仰向けで足を上げた状態で腕を上下に動かす
・500g~2kg(場合によって4kg)程度の軽いものをもってスクワットする
・壁に横向きに立ち、壁と反対側の腕を上げて壁タッチをして押す
など。
呼吸を意識して行うようにしましょう。

手術により、腋窩部周辺の神経機能は低下しています。
関節の周辺には、靭帯や筋膜の重なりが多く、物の重さ・関節の位置・動くスピードや方向などを感知するセンサーがたくさんあります。まずは、そのセンサー機能を回復させることが重要なので、500g~2kg(場合によって4kg)程度の負荷をかけた機能回復のための運動を行いましょう。

ここで大切なのは、呼吸を意識することです。

乳がん手術では、センチネルリンパ節生検やリンパ節郭清といったリンパ節切除を伴う検査・手術を行います。
それによってリンパ管機能が低下しやすい状態になり、進行すると術後リンパ浮腫を発症される方もいます。しかし、術後リンパ浮腫は、そのような検査・手術を受けた方全員が発症されるということではなく、また発症時期も、術後すぐ~10年以上経過してから発症されるなど幅広いです。

日々、BLUE ORGANIC SPACEで乳がん術後の方の臨床に当たっていて感じるのは、運動習慣のある方の方が未発症でも発症後でも良い状態を保たれている方が多くいらっしゃる印象があります。

話は、「呼吸」に戻ります。

なぜ、センチネルリンパ節生検やリンパ節郭清を行い、乳がん術後のリンパ浮腫リスクのある方に呼吸を意識した運動が必要なのか?ということをお話していきます。

浮腫とは、
水分やリンパ液が組織の隙間(間質)に溜まった状態のこと。

リンパ浮腫リスクのある方は、リンパ管機能が低下していると考えられるので、本来リンパ管に戻るはずだったリンパ液が組織の隙間に滞留しやすくなると考えられます。
リンパ液の主な成分は、タンパク質・脂質で、少量の水分が含まれます。

一方で、水分のむくみはどこにいくのかというと、
静脈などを介して心臓へと帰っていきますが、むくみ全体の排液機関としてはリンパ管が大きく負担していると捉えておくとよいと思います。

つまり、リンパ浮腫やリンパ管機能低下が起きると、「むくみ」が増えやすい状態になります。
(むくみの原因は様々あり、それぞれの原因によって対処法が異なります。今回はリンパ性のむくみに焦点をあてています)

では、このむくみに関わるリンパ管と静脈へ運動でどのようにアプローチできるのか?
という問いの一つの答えが「呼吸」になります。

私たちは呼吸をしているとき、肋骨やお腹が動いています。
肋骨の下には横隔膜という筋肉がテントを張っているように覆っていて、内臓のある腹腔と境目をつくっています。
息を吐くと、この横隔膜が緩まり、テントの頂点が高くなります。肋骨が内側へと絞られる動きをします。
息を吸うときは、横隔膜は縮まり、テントの頂点が低くなります。このとき、肋骨は外側へと広がる動きをします。

肋骨の中を胸腔と言いますが、呼吸をすると胸腔内の圧変化が起きます。
息を吸うときには胸腔内圧が低下し静脈が拡張して心臓への流入血液が増加し、息を吐くときに胸腔内圧が上昇します。
難しいことは置いておき、、、

つまり、呼吸をしているだけで胸腔内圧に変化が生まれ、その圧変化の差が静脈還流にも関係しているということです。

息を吸うときに、静脈還流量(心臓へ流入する血液量)が増えるということは、息を吸うことが大切なの?と思われがちですが、まずは「吐くこと」はとても大切になります。

乳がん術後の方に限らず、横隔膜が縮まって硬くなっている人はとても多く、そうすると肋骨は常に開いたままの状態になります。すでに息を吸った状態になっているということです。
まずは、横隔膜を緩め、可動域を増やす必要があるので、息を吐くことから始めるよい方は多い印象です。

例えば、息を吐ききって鼻をつまみ、何秒間耐えられますか?
つまんだ手を離した後に息が”ぜぇぜぇ”と上がらない程度に止めていられる秒数を測ってみましょう。
25秒止めていられなかったら、呼吸トレーニングをした方がいいサインです。
25秒~41秒できたら、優先的に呼吸トレーニングをしなくてもいいけれど日々のケアの一部に取り入れてもいいサインです。

呼吸トレーニングは簡単で、息を吐ききってから手で鼻をつまみ、耐えられる秒数を増やしていくだけです。
まずはこれから始めてみましょう。

さらに、術後に行うとよい運動の中で呼吸を意識する方法としては、
何かのエクササイズを行いながら、しっかりと「息を吐き切る」ということです。

息を吐く感覚がわからない方は、
両手を肋骨の下の方(ウエストの上あたりで触れるアバラ骨)に置いて、息を吐きながら左右の肋骨をおへその方へ絞る動きを練習してみましょう。
ポイントは、動きを意識しながら「息を吐き切る」ということです。

まずは、肋骨の可動性を引き出し、横隔膜の柔軟性を上げていきましょう。

負荷量の高めな筋力トレーニングや複雑な動きは、横隔膜の動きを取り戻しながら徐々に段階を追って進めていきましょう。

長くなりましたが、本日のポイントまとめです。


【術後6~8週目まで】
・患部はゆったりとした動きで可動域を確保するような動きをしましょう。(肩回しなど)
・全身の有酸素運動は、術後の体力低下を最小限にするために、できる範囲で積極的に行いましょう。
・呼吸トレーニングも取り入れましょう。

【術後8週目以降】
・呼吸を意識した、関節可動域維持や筋力向上のためのトレーニングをしましょう
・重量負荷は500g~4kgの範囲で、翌日に筋肉痛がさほど残らない程度に行いましょう。
・患部だけでなく、全身の動きを意識して日々の中に運動を取り入れてみましょう。

術後にどんな運動したらいいの?
という不安をお持ちの方、ぜひ取り入れてみてください。

今回は、乳がん術後のエキスパンダーやインプラント、自家再建などの乳房再建術を受けているかどうかに関わらず取り入れていただける考え方をお伝えしました。
エキスパンダー挿入期間、自家再建後は必要な運動や注意点も多少異なりますので、お困りの方はお気軽にお尋ねください。

また、BLUE ORGANIC SPACEは、乳がん術後のお悩みや不調ケア、リンパ浮腫ケアの相談も承っております。

文京区本郷三丁目・御茶ノ水・水道橋エリアで、術後ケア・むくみケアでお困りの方、自分に合っているケアや運動の方法がわからない、という方はお気軽にご相談ください。