苦手な動きが教えてくれること‐リンパ浮腫から考える運動プログラム
リンパ浮腫のある方の多くが、苦手な動き・姿勢というのを感じています。
しかしこれは絶対にそのような動きや姿勢になってはいけないということではなく、あくまで「苦手」であると捉えることがとても大切で、単なる制限や弱さではなく、身体からの大切なサインかもしれません。
今回は、術後上肢リンパ浮腫における運動プログラムの考え方として、「苦手な動き」とどう向き合うのか、そしてそれをどのように再構築してくかを段階的に紐解いていきます。運動とは、患部だけのことではなく、”わたし全体”が整っていくプロセスでもあるのです。
はじめに、冒頭にお話しした「苦手」ということの今回の意義は、ある動きや姿勢になると浮腫が一時的に増える可能性があるということです。出来ないというのではなく、その動きや姿勢になることはできるのだが、その後でリンパ浮腫患部の状態が少し良くない感じになる、と捉えてください。
そして、さらに大事なのは、しっかりと考えられた運動プログラミングに則って段階を踏んで訓練をしていけば、浮腫を悪化させる一方にはならないということです。維持をしながらチャレンジングな動きや姿勢にトライできていくということです。
段階を踏む、ということはとても大切なポイントです。術後リンパ浮腫のある人への運動において重要なのは運動プログラミングの段階設定をより細かく、長い時間軸で付き合っていく、という点にあります。
では、順を追ってお話していきましょう。
例えば、乳がん術後の上肢リンパ浮腫を発症している場合。
苦手な動き・姿勢をヨガであげるとすると、アドームカシュヴァーナーサナ(下向き犬のポーズ)、ウルドゥヴァムカシュヴァーサナ(上向き犬のポーズ)、ブジャンガーサナ(コブラのポーズ)、チャトゥルスヴァナーサナ(イルカのポーズ)、他ハンドスタンドと言われる手を床についた逆転ポーズなど、があります。
これらは、たしかに術後上肢リンパ浮腫のある人にとってはチャレンジングなアーサナであり、運動初心者やあまり筋力のない人にすぐにはオススメできないものになります。
今回は、「このアーサナたちを練習したい場合」にどうするか?
という視点で以下のポイントに沿って簡単にお話をしていきますね。
1.このようなアーサナの共通点
2.どのような運動プログラミングをするといいのか(改善すること・工夫すること)
1.術後上肢リンパ浮腫のある人の苦手なアーサナの共通点
①患部が心臓より下を向く
②患部の筋肉の長さが保たれている(アイソメトリック収縮or他の収縮→アイソメトリック収縮でキープに至る)
③手が何かの対象(この場合は床)に触れて身体を支えている
2.どのような運動プログラミングをするといいのか(改善すること・工夫すること)
①練習したいアーサナをブレークダウンしていく
②患部に関わる関節の可動域を確認する(リンパ浮腫以外の身体構造的な問題をクリアにする)
③全身の動きの連動性に目を向ける(そもそもそのアーサナが練習できる身体状態かの確認)
④体重よりも軽いものを支えられる筋力をつける(①と関連する)
2.の②~④はすべて2.①に通じることです。
練習したいアーサナをとるための身体状態を部分的に、全身的に、クリアできているか?ということを1つずつ訓練していくことから始めてみましょう。
その1つずつのブレークダウンした訓練自体がトレーニングとなります。ヨガクラスなのであれば、最終アーサナに至る前に3段階くらい工夫したアーサナや1.①~③をなるべく除いた他のアーサナで練習を重ねていくといいのではないでしょうか。そうすることで、ヨガを楽しみながら目指したいアーサナに向かうことが練習でき、”リンパを鍛える”というようなことになります。
ここで気づく人もいるかもしれませんが、1.①~③が術後リンパ浮腫のある人への運動プログラム強度設定の中に含まれます。これらをどのように組み合わせるかでリンパ負荷を考慮することができます。
これらを実際の運動プログラミングに落とし込むには、術後リンパ浮腫・リンパ管・リンパや血液の循環の特性とトレーニングの原理原則の基礎を組み合わせることが必要になります。
というか、それらを組み合わせるだけでいいのです。
とてもシンプルかつ簡単なのです。
しかし、1つ根幹部分で大切なことがあります。
「ヒトはどうやって動き、動くとは何なのか?」を本質的に理解しているということ。
術後リンパ浮腫への基本ケアにある「運動」は、患部のことだけを指すのではないというのが私の今回のポイントでもあります。
きっと学び多き方は、このブログを読んだだけで術後上肢リンパ浮腫へのパーソナルトレーニング(60分)を組むヒントとなり得ると思います。
これ以上は、さすがに無料で書けるほど肝が据わっていないので、いつか世の中に需要があった際には外部へ公開をしていくことと思います。需要があれば、ですが(苦笑)。昨年はBeyond Mammaの永田美香さんが目を向けてくださり、講義をさせていただく機会がありました。感謝以上に、こんなニッチな分野に興味を持ってくださる方がいることに感激でございます。
BOSでは、リンパドレナージなど複合的理学療法を行うときも、ヨガやトレーニングなどの運動プログラムを向くときも、術後リンパ浮腫がある人・発症リスクがある人たちへ、今回あげた点を一人一人のお身体に合わせて処方しています。
実際に術後上肢リンパ浮腫のある方が、始めは体力・筋力ともに弱く椅子ヨガで始まり、その半年後には立位アーサナをとっても各所の傷みが出ないようになり、最終的には苦手とする上記に挙げたアーサナの一部ができるようになっています。
リンパ浮腫の状態を維持しながら。
術後リンパ浮腫との人生は、一進一退。
共に生きるということは、エイジングに抗うという意味での現状維持が進化であると考えること。
運動においてリンパ循環を考えるということは、術後リンパ浮腫のある人に与えられた他の人にはない新しい視点であるということ。
最後までお読みいただきありがとうございました。